発行物:訳詩集 僕の五臓を引きちぎります

  • 2018.07.01 Sunday
  • 14:30

 

かなしみは、いたみ

 

非常に悲しいことを「断腸の思い」と表現するように、痛いぐらいの悲しみを詠んだ漢詩を訳して解説をつけました。

2000年前の名前もわからない誰かの、故郷に帰れない悲しみ。1800年前の皇帝になる男の、生き別れた悲しみ。1700年前の宰相の、権謀術数の中心でひとり抱えた悲しみ。

いろんな悲しみがそろっています。巻末に読書案内つき。
訳:時任三文子、解説:久志木梓の合作です。
A5/40p/¥500

2018/07/16発行予定

※学術的主張を意図するものではありません

 

試し読みは追記からどうぞ。

 

 


 

かなしいうた 詠み人知らず

 

悲しい歌は涙のかわり、

遠くを見遣るは家路のかわり。

 

考え事は降り積もり、

頭の中で化石します。

 

家に待ってる人はなく、

川を渡るに船もない。

 

カラカラ回る無為な思考は、

ぐるぐる回る車輪となって

 

僕の五臓を引きちぎります。

 




[原題]

悲歌(ひか)

 

[作者]

不明 

 

[解説]

 詠み人知らずの、悲しい望郷の歌。
 出典は『楽府詩集(がふししゅう)』です。楽府(がふ)とは楽曲を記録する役所のことでしたが、役所で記録された楽曲そのものを楽府と呼ぶようになりました。この歌も楽府のひとつであり、もっとも古い約二千年前の「古楽府(こがふ)」に分類されます。
 名もなき彼は、どんなふうにこの曲を歌ったのか。今では誰にもわかりません。楽府の旋律は早くに失われ、ただ歌詞のみが現在まで残っています。 

 


 

思い人 読み人知らず

 

わたしの思う、あのお方。

 

大海近くにいらっしゃるのよ。

 

あのお方には、何を贈ろう。

 

双(なら)びの珠(たま)のべっこう簪(かんざし)。

 

綺麗な玉(ぎょく)で飾られてるの。

 

聞けばあなたに

 

他心(ふたごころ)

 

この贈り物は、もう要らないわ。

 

砕いて焼いて、灰を散らすの。

 

これから先はもう思わない。

 

あの時のこと、覚えているわ。

 

恋しいあなたと別れる時に、

 

鶏や犬が気づいて鳴いた。

 

きっと兄嫂(あね)は

 

悟ったでしょうね。

 

今 秋風はさわさわと吹き、

 

はやぶさは低くかすめ飛ぶ。

 

東の空にお日さま昇れば、

 

わたしの心をわかってくださる。

 


 

[原題]

有所思 思う所(ひと)あり

 

[作者]

不明

 

[解説]

 またまた『楽府詩集』より、名もなき女性の恋の歌。南の、呉の言葉を話す彼女には、海の、さらに南に恋人がいます。遠くにいるあの人に、何を贈ろう。彼女は考え、両端に真珠がついた、玉で縁取られた、鼈甲(べっこう)の簪(かんざし)を贈ることにしました。真珠も鼈甲も呉の名物です。また簪というと日本では女性用ですが、中国では成人男性のかぶる冠をとめる、現代でいえばネクタイピンのようなアクセサリーでした。

 

 しかし思い人は彼女を裏切り、彼女は贈り物を燃やしてしまいます。思いを断ち切ろうとしするけれど、浮かんでくるのはあの人と過ごした夜。朝になってあの人が去って行くとき、庭の鶏や犬が気付いて、鳴いて吠えてしまったから、きっと嫂(あによめ)のねえさんも、あの人の存在に気付いているだろうけれど……。

 

 そう思えば断ち切りがたく、お日さまだけはわかってくれるとうそぶく彼女。この「有所思」という題材は後世に愛され、多くの詩人が恋心を歌いました。
 


 

とこしえ 郭璞(かくはく)

 

六頭の龍は留め置けず、
太陽の駆者(くしゃ)ぐるぐると。

 

時の流れに感じ入る、
秋になっては夏を求めて。

 

海は禽獣(けもの)を変えうるが、
わたしの生命(いのち)は変えられぬ。

 

不死の国へとゆかせてよ、
天駆る龍は御せないの。

 

徳があってもただのヒト、
決して戻せぬ過ぎたカコ。

 

年は流れる水のよう、
胸から溢れる嘆きの言葉。

 


 

[原題]

遊仙詩(ゆうせんし) 其四

 

[作者]

郭璞(かくはく)

 

[解説]

 なんだか難解な感じがするこの詩は「六朝詩(りくちょうし)」に分類されます。典故(てんこ)(元ネタ)を知らないと何が何だかわからない難解さが六朝詩の特徴です。
 六頭の龍とは、太陽をひっぱり時の流れを司ると考えられていた龍のこと。海がけものを変えるとは、むかし、海にもぐると雀は蛤に、他の動物も海の生き物に姿を変えたが、人間だけは人間のまま変わることができなかった。という話にもとづきます。

 

「遊仙詩」は詩のジャンルのひとつで、「不老不死の仙人になりたーい!」という詩です。しかしこの詩は遊仙詩っぽくありません。仙人にはなれない、とあきらめきった悲しみが、詩の全体を通して響きわたっているせいでしょうか。


 作者の郭璞(かくはく)は四世紀の人。超人的な予知能力があり皇帝から寵愛されますが、反逆者に反乱は成功するか占わされ、「否」と答えたため殺されます。反乱の成否を見通していた彼には、ただの人間である自分の限界も、おなじく見えていたのかもしれません。

 


 

こんな感じで訳詩と解説がついた本です。

 

横長にしたので、実際のページはこうなっています。

 

 

 

 

​見開きで右ページ(偶数ページ)に解説がゴシック体で、左ページ(奇数ページ)に訳詩が載っています。

 

収録作品は以下の画像をご覧ください。

 

 

変わった本ですが、よろしくお願いします。

 

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